手書きはデジタルデバイスに残るか?

最近はすっかり文字を書かなくなってしまって、漢字は読めるけど書けない文字が増えている気がします。ほとんど文字変換に頼ってますから、難しい漢字は無理。手紙を書くこともなく、年賀状なども印刷で、サインで自分の名前を書く以外は日常で文字を書く機会が減っています。連絡はパソコンのメールや、スマホのSNSで済むし、意識しないと文字を書かない日がほとんどです。

日本語を左から右に書く様になったのは戦後(1946年)だそうで、およそ70年の歴史。大橋巨泉が「ハッパフミフミ」と、スーツのポケットに収まる短めの万年筆のCMが1968年。この頃は進学祝いに万年筆を贈っていたくらいなので、手紙はペンとインクで書いてましたね。80年代後半に日本語ワードプロセッサーが安く、ポータブルになるまでは、契約書とか残す書類は和文タイプライターだったんじゃないですか?それ以外はとにかく手書き文字だったはずです。

万年筆『エリートS』とテレビCM"はっぱふみふみ"

ちょうどその頃、パーソナル・コンピュータの概念で多くの人に影響を与えたアラン・ケイのDynaBook構想(1968)が発表されました。教育用をイメージして、キーボードの他にペンで絵を描くものを提案している。(東芝がアスキーの西さんから商標を買って、その名を使ったりしたので、紛らわしいですが : ラップトップで米進出(1986)、2018年シャープに売却)その後ケイたちがその当時の技術でできるDynabookをイメージしたAlto(1973)が、現在のパソコンOSの原型を作ったといえるほど。ケイの構想からiPadのペンシルが出てくるまで47年かかったことになりますね。ちなみにiPadはスタートレックのPADDがアイデアだと行った俳優もいたそうですが、ジョブスがiPhone発表時にWWDCにケイを招いているし、アラン・ケイのインタビューからも、長年の付き合いであるジョブズがDynaBookを意識していない訳はないでしょう。

1972年、Alan Kay, A Personal Computer for Children of All Ages [picture of two kids sitting in the grass with Dynabooks] ©right; Alan Kay

昔からペンを使うタイプのデジタル端末は、結構チャンレンジが多くて国内でもシャープ、キヤノン、ソニー Palm Top(1990)などでもペン型デジタイザをもつ端末は開発していました。AppleがPDA(Personal Digital Assistant)という言葉とともにNewtonを発売したのが1992年。後年のblogのような縦ロールでエンドレスな手書きメモ機能や、ペンによるジェスチャー操作、手書き文字の英字変換、最終的にはWiFiでWebブラウザまで動かせるものでしたが、マーケティング的に失敗し、やがて戻ってきたジョブスに打ち切られます。当時の主流となったのが翌年に発売されたPalm、ポケットに入る小ささと用途を手帳機能に絞った割り切りとコンピュータ連携で10年ほど活躍します。同時に国内では「電子システム手帳」から「液晶ペンコム」として小型化、低価格化したシャープのザウルスがビジネスマンの間では人気でした。しかし、文字の入力の速さでいうと手書きよりもキーボードの方が速いわけで、メモや電話帳くらいなら、ケータイ(ガラケー)のテンキー入力で十分だったのか、PDAの人気も下降し、ハンディPCが増えて、2007年のiPhoneの登場前には見かけなくなりました。

SONY Palm Top PTC-500(1990)
参照:ソニー/歴史/商品のあゆみ

Palm Vs / Newton MessagePad 130

Palm Vs / Newton MessagePad 130

SONY Palm Top カタログより引用 まだネットが使えない時代なので電話回線でFAXへ送るため受話器に当てるカプラなどの機器が懐かしい

iPadは20年かかってNewtonに追いついた?

実際のところ、iPadで手書き文字認識は随分前から実現しています。iPhoneでもキーボードに簡単中国語を入れれば、指で漢字を描いても認識してくれます。マスの中に書く様子はザウルスに似ています。英語だけならMacでもInkwellで手書き文字認識が可能です。MezacというアプリでもキーボードとしてiPadに連続した手書き文字で入力できる様になっています。しかし、Newtonで実現していた自然な手書き動作とは違っていました。余白に自由に文字を書く、後から変換するか決める、丸・四角などの簡単な図形を整形する、不要な部分をギザギザの手書きジェスチャーで消すなど、紙とペンで馴染みのある動作から生まれたUXがありました。これらの多くはMyScriptのNeboというアプリでかなり近い感じで数年前から実現されています(Window版もあるのでSurfaceとかでも使えるそうな)。
そしてようやくiPad OS 14から、"Scribble"という名前でOSレベルでその機能が組み込まれることになりました(日本語版はiPad OS 15(2021年)から)。WWDCのビデオで見る限り、消す動作も復活しているようですし、余白に書くことで自然に追記できるようになりそうです。(もちろんアプリが対応してからですが)